【人物紹介】


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【人物相関図】


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第13話
~AIH・IVFという名の選択肢(下)~




遅かったのね。


・・・何の用だ。


ご機嫌ななめね。
かわいい子猫ちゃんを手放してご傷心かしら?


・・・そんな事を言うためにわざわざ呼び出したのか?


とりあえず座ったら?


薄暗いラウンジに人気はない。
ポツリポツリと置かれたテーブルは、まるで離れ小島のように蝋燭の明かりに浮かび上がっている。
優一は無言であやめの横に座った。

・・・マチ子はどうしてる?


もちろん可愛がってあげてるわ。


あいつはあいつで苦しんでいるんだ。
少しくらい分かってやってくれ。


ふん。
そんなのもう時期、どうでも良くなるわ。


・・・どういう意味だ?


あやめはくすくすと楽しそうに笑った。

私、もうすぐ体外受精を受けるのよ。


体外・・・?


そう。
きっと葵の子を身ごもることになるわ。


なんだって・・・!
君は本当にそれでいいのか?


もっとも望んだことよ。


君は自分を愛していない男の子供を妊娠しようとしているんだぞ!


葵は現実が見えていないだけ。
子供ができればきっと本当に大切なものは何か分かるはずよ。


君は・・・子供をだしにして、
葵君を取り戻そうとしているのか?!


人聞きの悪いこと言わないで。
せっかく喜ぶと思って伝えたのに。


どういう意味だ?


葵が私の元に戻ったら、
マチ子だって泣く泣くあなたの所へ帰っていくでしょう。


バカな・・・!マチ子はそんな女じゃない!


お人好しね。
でも、私は違う。
欲しいものは何としても手に入れるわ。力尽くでもね。


・・・!




仁勝園病院―。

父さん!父さん!!


「なんだ、騒々しい・・・。」

何の用だ?


この病院のこと・・・経営状態のこと、
どうして今まで黙っていたんですか!


・・・誰に聞いた。


あやめが・・・
あやめの実家がこの病院に援助をしていると・・・!


・・・そうか・・・。


つぶやくように葵の父、宗太郎は息を吐いた。

あやめさんが言った言葉、それが真実だ。
この病院は長い間、経営が危ぶまれてきた。
そこから救ってくれたのはあやめさんの実家「香之鳥家」に他ならない。


一体・・・いつからなんですか!


・・・君らの結婚を期に援助の申し出を受けた。


それでは・・・援助を目的に父さんは結婚を許可したということですか?


そうではない。
君たちは君たちの意思で結婚したはずだ。
だが結婚後、まもなくあやめさんから援助をしたいと申し出があった。


渡りに船、だったわけだ・・・。


―否定はしない。


なぜそれをもっと早く父さんの口から伝えてくれなかったんだ・・・!


君に伝えなかったのはあやめさん強い希望だった。
引け目を感じて欲しくなかったからだろう。


これからどうするつもりですか?
今後も香之鳥家からの援助を受け続けるおつもりですか?!


援助についてはいつ打ち切られても構わないと思っている。


そんな・・・じゃあ、この病院はどうなるんです?!


経営を続けるのは難しいだろうな。


患者は?従業員はどうなさるお考えですか?!


それはお前が心配することじゃない。


・・・父さんは無責任だっ!


・・・力不足は認める。
だが、私は自分の責任を放棄するつもりはない。


父さん・・・。


沈没する船であろうと、決してその舵は投げ出さないさ。


仁勝園家・サンルーム―。

今回のAIHが失敗に終わって、
あなたもほっとしているでしょうね。


そんな・・・。


いいのよ、隠さなくて。


あやめ・・・。


だけどねマチ子。
これで終わりだと思ったら甘いわよ。



まぁ、そのうち分かることよ。
今日はもういいわ、あなたも休んでちょうだい。


あやめはそのまま口をつぐんだ。
AIHの失敗があったわりに機嫌のよいあやめに違和感を感じつつ、マチ子は言われた通り自室に戻った。

私が思うに


部屋に戻ると同時に、フクが基礎体温計から飛び出してきた。

あやめさんは体外受精を計画しているのだと思います。


体外受精って・・・
人工授精からステップアップした時にするあの?


そうです。
マチ子さん、あなたもだいぶ妊活に詳しくなってきたようですね。


体外受精って人工授精(AIH)と何が違うのかしら?


以前も少しお話しましたが、
体外受精は卵子と精子を体外で受精させます。
これがAIHと最も違う点です。


なるほど。


AIHの場合は受精は体内で自然に行われるのを待つしかないのですが、
体外受精(IVF)は、受精後、初期胚~胚盤胞いう状態になるまで育て、それを子宮内に戻すのです。



ということは・・・。


AIHだと、受精と着床の双方が出来て妊娠するわけですが、
IVHの場合、受精は確認できているので後は着床だけ。
しかも排卵誘発剤を使用し、複数の成熟卵子を採卵手術で卵胞液ごと体外に取り出し、受精させます。
その中から分割がスムーズでグレードの良い受精卵を選んで子宮内に戻す(移植)ので、通常AIHよりも妊娠率が高くなるのです。


グレード?


分割がスムーズでフラグメンテーションが少ないものは良好、分割が遅くフラグメンテーションが多いものは不良とみなします。


フラグメンテーションって?


フラグメンテーションとは、細胞の断片化のことです。
分割細胞以外に壊れた細胞の断片が多いものはその後の成長が不良なことが多いのです。
通常グレード1~3が移植可能な受精卵になります。
※初期胚のグレード(Veeckの分類)


日本産科婦人科雑誌60巻12号より引用

うまく育たない受精卵もあるの?


はい。
受精させれば確実に胚盤胞まで行くとは限りません。
分割を始めても途中で止まってしまう受精卵もあります。
そもそも卵子と精子が受精しない「受精障害」という場合もありますから。


受精障害・・・。
その場合には妊娠を諦めるしかないの?


いいえ。
次に顕微授精(ICSI)を検討するパターンが多いと思います。


顕微授精?


IVHでは主に、卵子を入れた培養液に精子浮遊液をかける(通称「ふりかけ法」)方法で自然な受精を待つのですが、
受精障害があると診断された場合には顕微鏡下で元気のある精子を一つ選択し、それを卵子内に細い針を使って直接入れます。


顕微授精では100%受精するの?


不妊治療に100%はありません。
IVF、ICSIいずれも受精率は70~80%程度です。
ICSIは主に、IVFからのステップアップとして選択されますが、精子の数が極端に少なかったり、運動性が悪かったりすると、IVFを飛ばしてICSIを行う場合もあります。
いずれもケースバイケースということです。


カップル次第ということね。


妊娠は二人の年齢、生活スタイル、元々持つ体質や、相性などの影響が大きく、確率などの数字はあくまでも参考レベルと思った方がいいかもしれません。


あやめと葵に子供ができるかもしれない・・・私、覚悟を決めたつもりだけどやっぱり・・・。


じゃあ、二人を止めるのですか?


分からない・・・私、一体どうしたら・・・?


私にも分かりません。


そんな・・・。


ただ皆さんのゴタゴタなど、
子供にとっては全く関係のないことです。



後は自分達で考えて答えをみつけてください。


フクさん・・・ありがとう。


フクが消え去った後も、マチ子はしばらく基礎体温計をじっとみつめていた。
まっすぐに見つめるその瞳から、迷いはもう消え失せていた―。
~続く~

いよいよあやめの体外受精が目前に迫っている。
葵は病院の存続を守るため、精子を提供するのか?
そしてマチ子が下した決断とは?

いよいよ、クライマックスに突入!


第14話「妊活が教えてくれたこと」に続く!




体外受精における刺激法

体外受精を成功させる上で、より良好卵子を採卵できるかどうかは重要です。
そのため、体外受精を行う多くの場合に、アゴニスト法アンタゴニスト法といった方法で良好な卵子を作るための準備をします。

アゴニストの場合は、刺激開始時期により、ショート法、ロング法、ウルトラロング法などがあり、場合によっては数ヶ月前からスプレキュア点鼻薬などを使って下垂体ホルモンであるFSH(卵胞刺激ホルモン)、LH(黄体化ホルモン)の抑制をします。

これにより、自然に起こる卵子の成長を止め、人為的に卵胞の成長をコントロールしやすくします。

どの刺激法が良いかには個人差があります。
またOHSS等の副作用を起こす可能性もあります。
医師とともに計画を立て、実際に試して傾向をつかむ必要があります。

体外受精のスケジュール

刺激法を実施するしないに関わらず、採卵以降のスケジュールは個人差はありますが、大体同じようなパターンを辿ります。

採卵(卵胞の育ちをエコーで確認しながら決定)

受精

培養

初期分割期胚移植(ET)採卵から約2~3日目に実施

胚盤胞移植(BT)採卵から約5日目頃に実施

(※ETかBTのいずれか一方を実施します)

移植後1週間程度で、
子宮内膜などをエコーで確認する場合も

高温期14日目頃に妊娠判定を実施


着床を助け流産を防ぐため、
高温期中は黄体ホルモン補充療法を併用(特に自然排卵を抑えた場合)することが多いです。

体外受精の費用

体外受精の平均費用は28万円~60万円ほど。
大学病院で行う場合は、その費用が抑えられる傾向にあります。

またETよりはBTの方が、
IVFよりはICSIが高くなるなど、培養期間や手技が増えるほどに高額になるのが通常です。

不妊治療は医療保険は効かず、自費負担。

とはいえ、各自治体の助成金制度を活用すれば
7,5000~150,000円程度/回(年間回数指定あり)は補助されます。

また医療費控除の対象にもなります。

最近では「不妊治療ローン」など、銀行でローンを組める場合もあります。
上手に活用し、経済的な負担を最小限にするのも、体外受精を検討する上で大切だといえます。

受精卵の凍結保存って何?

その周期に採卵した卵子と精子で出来た子宮内に戻すことを「新鮮胚移植」、 できた受精卵を凍結させて、その後融解し、子宮内に戻すことを「凍結融解胚移植」と言います。 通常、IVFを行う場合には複数の受精卵を作りますが、
その周期に移植できる数は日本産科婦人科学会が定めるガイドラインで
「原則として単一とする。
ただし、35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては、2胚移植を許容する」

と、最大でも2つまでと決まっています。

しかし、今後第2子3子を望む場合に、現状よりフレッシュな卵子を生み出すのは今の医学では難しいのです。
そのため、受精卵を凍結し、その後の移植のために保存する事が出来ます。

受精卵を凍結することで、それなりのコストが必要になること、
またわずかですが、受精卵を凍結、融解したりすることがダメージに繋がる可能性もあります。

とはいえ、妊娠率で比較した場合、
日本産婦人科学会の発表によると、2010年の体外受精の治療成績では、
新鮮胚移植の妊娠率は22.3%
凍結融解胚移植の妊娠率は32.6%
と、凍結融解胚移植の方が妊娠率が高くなるという傾向があります。


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