【第14話】妊活が教えてくれたこと|妊活乙女たちの華麗なる日々

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【人物相関図】

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第14話 ~妊活が教えてくれたこと~

カラン・・・

一体、僕はどうしたいいんだ・・・。


人の少ない静かなバーカウンターで、一人ウイスキーのグラスを傾ける葵。
その背中は丸く、暗い影を落としていた。

このままでは病院がダメになってしまう・・・。
それだけは・・・嫌だ・・・!だけど・・・。


酔っ払った葵の頭にぼんやりとマチ子の顔が浮かんだ。

俺は・・・たった一人の女性も幸せにできない愚か者だ・・・。


酔いつぶれ、カウンターにうつ伏せになる葵。
その頬を一筋の涙が伝った―。

ガヤガヤ・・・

あら、もうこんな時間。


買出しを終えて店の外に出ると、辺りはすっかり夜の帳が下りていた。
急いで戻ろうと歩き出したその時―。

あ・・・優一さん?


マチ子は帰路を目指す人々でごった返す街角に、
優一の姿を見つけた。

・・・久しぶりだね。


え、ええ・・・。


元気にしているのかい?


ええ・・・。今はあやめの家に置かせていただいているの。


そうか。


・・・。


あやめさんは良くしてくれているのか?


あ・・・もちろん。
優一さんはご飯、しっかり食べてるの?


大丈夫。
これでもカフェで働いているんだ。少しくらいの炊事は慣れたもんだよ。


そうだったわね。


緊張していた二人の顔にようやく笑みが浮かんだ。

君が元気そうで、本当に嬉しいよ。


優一さん・・・。


もう俺のために無理する必要なんてないんだ。
君には君の幸せを掴み取って欲しい―。そう願っているんだ。


優一さん・・・!
私、私・・・本当に自分勝手でごめんなさい・・・!


マチ子・・・。


でも、あなたのことは本当に愛していたのよ。
嘘なんかじゃないわ。あなたの会社が倒産した時、自分の全てを賭けてでもあなたを守ってあげたいと思ったの。なのに・・・なのに・・・!


いいんだ、マチ子―。その気持ちだけで十分俺は幸せだよ。


優一さん・・・。
うっ!!


突然、マチ子は口元を押さえるとトイレへと駆け出した。

どうしたんだ?!マチ子!


しばらくすると、やや青ざめたマチ子がトイレから戻ってきた。

ご、ごめんなさい・・・。


マチ子・・・君、もしかして・・・?


マチ子は優一から目を逸らし、うつむいた。

君は妊娠しているんだね。


・・・。


それは僕の子・・・ではないね。お腹の中にいるのは葵君の子、そうだね?


マチ子はしばらく視線をさまよわせていたが、その後覚悟したように小さく頷いた。

そう・・・か・・・。


・・・ごめんなさい・・・私・・・。


君は謝ることはない。
で、どうするつもりなんだ?葵君はこのことを知っているのか?


マチ子はふるふると首を振った。

子供の事は私が何とかするから大丈夫。
葵にはこれ以上負担を増やしてほしくないの。


だが、君一人で何とかできる問題じゃない。


分かってる。だけど今は時間が必要なの。


あまり悠長なことを言ってられないんじゃないのか?あやめさんが何をしようとしているのか知らないわけじゃないだろう?


・・・どうしてそれを?


俺も全くの部外者じゃないってことだ。マチ子、お前もしかして子供を・・・。


それはないわ!絶対に産んで育てる!


・・・そうか。俺は出来る範囲で応援させてもらうよ。


・・・優一さん・・・。


頑張れマチ子。
俺は夫・・・いや元夫として応援する。


・・・はい!


マチ子は優一に深々と頭を下げるとその場を後にした。

・・・これでよかったんだよな・・・?


残された優一はただ静かにマチ子の後姿を見守った。

俺、思った以上にあいつを愛していたんだなぁ・・・。


優一がつぶやいた独り言は吐息とともに吐き出され、誰の目にも止まることなく消滅した。
せめて真冬の白い息のように形を残してくれたらよかったのに。
優一はそんな事を考えながら、自分もその店を出たのだった。

あやめに案内された屋根裏部屋の写真

仁勝園家、マチ子の部屋―。

ここに赤ちゃんがいるんだ・・・。


マチ子はそっと自分の下腹部に手を当てた。

この子のためにも私、これからのことたくさん勉強しなくちゃいけない・・・そうだ!


マチ子はおもむろに基礎体温計を手に取った。
フタを開けると、そこには37度近い高温期が長い間続いているグラフが表示されている。
他でもない、マチ子が妊娠している証拠であった。

フクさん、フクさん!聞いてもらいたいことがあるの!


マチ子は基礎体温計に向かって声を掛けた。だがフクからの返事はない。いつもならこちらから声を掛けなくても二人きりになるとちょくちょく顔を出していたのに―。そう考えていてふと、マチ子はここしばらくフクが顔を出さなくなったことに思い当たった。

フクさん!どうしたの?体調でも悪いの?!


どんなに声を掛けてもフクは姿を現さない。

おかしいわね・・・。


その後もマチ子は基礎体温計に向かって呼びかけたが、しばらく続けてからフタを閉じた。
漠然とした不安はいつまでも心にわだかまっていた。しかし妊娠特有の強い眠気が次第にその不安を白く塗りつぶしていった―。

翌朝―。


いよいよ明日ねぇ、葵♪


・・・。


さぁ、今日は精のつくものをしっかり食べて。
今度こそ元気な精子をたくさん出して頂戴ね。


・・・。


何をしているのマチ子!鰻はどうしたの?それからニンニクに山芋、スッポン鍋も今すぐ用意してきなさい!


は、はい・・・。


・・・。


ねぇ葵。あなた明日は絶対に大丈夫なんでしょうね。


・・・あ、あぁ・・・。頑張るよ・・・。



聞いた?マチ子。明日は本当に記念すべき日になるかもしれないわね!


・・・えぇ、そうね・・・。


マチ子は居たたまれなくなり、二人に背を向けいそいそと厨房へと戻った。
そんな姿からも葵は目を逸らした。

・・・すまない、マチ子・・・。


え?何か言った?


あ、いや・・・。


・・・。


仁勝園病院―。


葵君―。


―優一さん・・・。


話があるんだ。


ぼ、僕には何も話すことはありません。


・・・。


失礼します。


葵はそそくさと優一から立ち去ろうとした。

君はマチ子を生涯裏切り続けるのか!?


・・・?それはどういう・・・?


マチ子は・・・
マチ子は妊娠している!


!!!


~続く~
あやめの体外受精を明日に控えた夜。
葵は優一からマチ子が妊娠していることを聞いた―。
葵が出した答えとは?

次回いよいよ最終回!

第15話「こんにちは赤ちゃん」に続く!

いよいよ最終回に突入。
命を取り巻く妊活物語、いよいよ完結です!


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