AIH・IVFという名の選択肢(中)|妊活乙女たちの華麗なる日々

【人物紹介】

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【人物相関図】

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第12話
~AIH・IVFという名の選択肢(中)~



AIH・IVFという名の選択肢(中)|妊活乙女たちの華麗なる日々

仁勝園家―。

・・・行くのよ、マチ子・・・!


マチ子は震える指で呼び鈴を鳴らした。
まもなく、使用人がインターホンに応じた。

「奥様がお待ちです。」

美しい調度品が置かれた長い廊下を抜け、マチ子は陽射しが心地よいサンルームに通された。
AIH・IVFという名の選択肢(中)|妊活乙女たちの華麗なる日々

待ってたわよ、マチ子。


あやめ・・・。


長話は時間のムダよ。
あなたの部屋へ案内するわ。


あやめはさっさと歩き出した。
エレベータで最上階へ、さらにそこから長い廊下を抜け、細い鉄製の螺旋階段を上がる。
仁勝園家にこんな場所があったのかと驚くほど、
そこは薄暗く、埃っぽい場所であった。

さあ、ここがあなたのために用意した部屋よ。


ここ・・・?


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そうよ、あなたにぴったりの部屋でしょう。
遠慮せずに好きに使っていいのよ。


あ、ありがと・・・。


それから、この家にタダで居候させるワケにはいかないわ。
あなたは今日から私のメイドよ。
さっさとそれに着替えて働いてちょうだい。


メイド・・・。


あやめは投げつけるように服を渡すと、さっさと部屋を出て行った。
分かっていたことはいえ、あやめの態度はマチ子の心を冷たく萎縮させた。

・・・これくらいのこと、負けちゃだめ・・・!


マチ子は深呼吸をすると、渡されたメイド服にに袖を通した。

・・・これで、よしっと!


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その日からマチ子のメイド生活は始まった。
予想していた以上に、あやめの対応は冷たく、厳しいものであった。
葵が何かを言おうものならあやめは狂ったように絶叫する―。
マチ子は今起きているこの不思議な関係がいつかきっと良くなると信じることしかできなかった―。

ある日のこと―。

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お待たせいたしました。


・・・・なによこれ。


え?いつものコーヒーですけど・・・。


コォオフィイーですって!
あなたっ!明日のAIHを失敗させようとしてるのねっ!


いえ、そんな・・・?


コーヒーなんか飲んだら体が冷えちゃうじゃないっ!
言っておいたじゃない!!


あ・・・すみません・・・!


今すぐハーブティーに変えてちょうだいっ!


あやめは明日のAIHを前に苛立ちが隠せない。
今日はこの後、最後の卵胞チェックのため受診に行く予定になっており、
マチ子もそれに動向する予定であった―。

マチ子。あなた今日は病院に来ないで。


え?


あなたがいるとうまく行くものもダメになりそうよ!
黙って掃除でもしていなさい!


は、はい・・・。


しばらくすると、あやめは古株の使用人とともに屋敷を後にした。
いよいよ明日―・・・。
そう思うと、マチ子の心は震えるほど不安でいっぱいになった。

―子、マチ子!


あ、あおい!?
どうして?
仕事中じゃ・・・


予想もしていない葵の登場にマチ子は心底驚き、そして嬉さが込み上げた。
側にいても手を触れることはおろか、
口を利くことも許されない―。
あやめが言っていた苦しみが今のマチ子には理解できた。

マチ子!逃げよう!


え・・・。


このままだとAIHが行われてしまう!
望まない子が生まれてしまうかもしれないんだよ!
もうこうするしかないんだ・・・!


いつも冷静沈着な葵らしくない、感情的な言葉の数々。
葵は追い詰められている―。
マチ子は深く息を吐き、まっすぐに葵の目を見つめた。

だめよ、葵。


マチ子・・・。


逃げるなんて、なんの解決にもならないわ。
私達は子供を望むあやめから目を逸らしてはいけないのよ・・・!


じゃあ・・・君は僕とあやめの間に子供が授かればいいと思っているのかい?!


そうじゃないわ!
だけど、逃げるのは間違ってる!
私がどんな思いでこのお屋敷に足を踏み入れたか分かる?
全ての問題から目を逸らさずに、正面から向き合おうと覚悟を決めて来たの!


マチ子・・・。


子供を授かるかどうかよりも、
その子を愛せるかを考えて。
自信がないのなら、何としてもあやめを止めて。
それがあなたがあやめに伝えられる精一杯の誠実さだと思うわ。


・・・わかった。


葵・・・。


逃げようなんて言い出して、すまなかった。
少し冷静さを失っていたようだ・・・。


・・・。


心配しないで。
僕に出来る最大限の誠意をあやめに見せてくるよ。


うん・・・。
あなたならきっとそれが出来る人だわ。


葵はどことなく悲しみの色を浮かべた表情で微笑むと、静かに背を向け、立ち去った。

葵・・・。


AIH当日―。

葵、分かっているわね。
今日が記念すべき日になるかもしれないのよ。


あぁ、そうだな。


・・・いってらっしゃいませ・・・。


どんなに覚悟を決めたつもりでも、この日を迎える事が恐ろしかった―。
昨夜は一睡も出来なかったマチ子は青い顔を隠すように、頭を下げた。

あなたにとっても年貢の納め時ね、マチ子。


勝ち誇ったように鼻を鳴らし、あやめは出掛けていった―。
AIH・IVFという名の選択肢(中)|妊活乙女たちの華麗なる日々

・・・それではご主人様は採精室で、精子を採取してきてください。
奥様はしばらく待合室で待っていただき、それから処置室へ・・・。


ちょっと待ってください。


あやめが立ち上がるのと同時に、今まで黙っていた葵が声を発した。


・・・どうしました?


精子は提供できません。


どういうことですか?
承諾書はいただいておりますが・・・。


これは妻が勝手にサインしたものです。


あおいっ!!


妻へ何を言っても無駄だと思った。
だから、先生の前ではっきり言わせていただきます。
私は精子を提供できません。


・・・きちんと説明していただけますか?


先生、違うんですっ!
彼はEDなんです!
だからきっと精子を出せと言われてもなかなか・・・。


確かに、僕と彼女の性生活はうまくいっていません。
だけど、それとは関係ないんです。


他の事由で精子提供ができないと?


はい。
これは僕ら夫婦間の問題です。


あおい・・・。


メラメラと燃え立つ音が聞こえそうなくらい、
あやめの顔は怒りに染まっていた。
ため息をついた医師はこう告げた。

・・・日を改めましょう。


待って!待って下さい!
また1ヶ月待つなんてごめんよ!
先生、やってください!
精子が出ないというのなら、精巣を切ってでも精子を出して!


わかってくれ、あやめ!


嫌よ!勝手なこと言わないで!


とにかく、今日はこれ以上は無理です!
ご夫婦の問題が解決してからもう一度いらしてください。


半ば追い出されるように、二人は診察室を出た。
ふとあやめに目をやると、その頬には静かに涙が伝っていた。

恥をかかせてすまない・・・。
だけど、こうしなければ・・・。


その時、クックックッと搾り出すような笑い声があやめの口から洩れた。

あなた、私があの家を出ても病院が存続できると思っているの?


・・・なんのことだ?


おめでたい人ね。


流れる涙を拭うこともせず、
あやめは憎悪で満たされた顔を葵に向けて言った。

葵、あなたの実家の病院はね、ずっと以前から経営難が続いているのよ。
それもこれも、お義父様が経営に関心がないせいでね。
「平成の赤ひげ先生」って呼ばれているのよ、知らなかった?


平成の赤ひげ・・・?


勘違いしないでね。
お義父様は尊敬されているんじゃない!馬鹿にされているのよ。
最低報酬しかもらわないで、身を粉にして働いて・・・その結果、病院は経営破綻寸前。
とんだ笑い話よ。


・・・本当なのか・・・?


ええ、本当よ。
そんないつ沈むかも分からない病院に
定期的に援助をして助けてきたのは、他でもない私の実家よ!



私達が別れることになったら、当然援助も打ち切るわ。
そうなったら赤ひげ先生の病院は一体いつまで存続できるのかしら?


・・・なんてことだ・・・。


分かったら、さっさと精子を出しなさい。


そんな・・・。


葵、あなたにはもう選択肢はないのよ。


そんな・・・頼む、少し考える時間をくれ・・・。


あやめはしばらく考え、ため息をついた。

いいわ、今月は待ってあげる。
こんな状態で「やっぱりやります」と言っても先生は承諾しないでしょうしね。
その代わり来月にはAIHではなく体外受精を行うわ。


なんだって?!


AIHの妊娠率は5~10%。
それと比較してIVHの妊娠率は20~30%、さらに顕微授精(ICSI)にしたら20~35%
だったらもっとも妊娠率の高い方法で、さっさと妊娠してやるわ。


あやめ・・・。


不敵な笑みを浮かべるあやめに、
葵は何一つ言葉を見つけることが出来なかった・・。
~続く~

仁勝園病院がかつてから経営難であったことを知った葵。
しかもそれを救っていたのはあやめであるという事実を突きつけられ、葵は言葉を失った・・・。


第13話「AIH・IVFという名の選択肢(下)」に続く!


今回、フクのおさらいコーナーはお休みです。
AIHについての記事はこちら
IVFについては第13話で詳しく説明します。




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