※上記をクリックすると大きい画像が開きます。
【人物相関図】
※上記をクリックすると大きい画像が開きます。
第2話 ~卵子と精子のストイックな宿命~
心地よい眠りからマチ子を引きずり出すように、聞きなれないメロディーが流れ始めた。
♪ニンカツカツカツ、ニン・ニン・ニン♪
・・・な、なに・・・?
・・・・これは一体・・・?!
おはようございま~す!
どうも、フクです。あ、動かないで!
え・・・。
はい、どうぞ。
この部分を口にくわえて。できれば舌の後ろに当たるように。
・・・。
ピピピピピ・・・・
はい、もういいですよ。
『36.10』
と表示されていた。
これが本日の基礎体温ですね。
この調子で毎日測定してください。では、私はこれで。
あ、あの・・・!フクさん・・・!
・・・なんでしょう?
・・・あの・・・、毎朝6時にあのメロディで起こされるのでしょうか・・・?
そうですよ。
あの・・・音が大きくてご近所迷惑だと思うんです・・・。
それになんだかメロディも・・・。
ああ、気に入りましたか?フク、作詞・作曲です。
・・・そうですか・・・。
ご心配にはおよびませんよ。
あの素敵なメロディーはマチ子さん、あなたにしか聞こえません。
・・・そうなんですか?
はい。
分かりました・・・。だけど、もう少しだけ音を小さくしてもらえますか?大きすぎて心臓に悪いんです・・・。
本当はあのくらいの音量で聴くのがベストなんですけどね。まぁ、分かりました。音量は「小」に設定しておきましょう。
ありがとうございます。
そういえば、マチ子さんには、妊活をする上で最重要事項を伝えていませんでしたよね。
さ、最重要事項・・・?
・・・今、お時間よろしいでしょうか。
・・・まぁ、あと30分くらいなら・・・。
充分です。では行きましょうか。
い、行くってどこへ・・・?
あなたの「子宮」です。
・・・え?
その後には優一さんの精巣の中にも行かなくてはいけません。時間がないので急ぎますよ。
こ、これは・・・?!
「縮小」に伴う副次的反応です。じきに慣れますよ。
い、いやぁぁぁ!!
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・
ここは・・・?
マチ子さんの卵巣付近、ちょうど卵管采の入り口のところです。
卵管采・・・。
そう。
ここでは毎月、卵巣から生み出される卵子をキャッチし、卵管へと運ぶのです。
あ、見てください。ちょうど排卵が起こるところですよ。
まもなく、噴水のように噴出した液体とともに、白く輝くピンク色の美しい球体が宇宙へと放たれた。
・・・まぁ・・・!キレイ・・・!
おめでとう。無事に排卵が出来たようですね。
卵管采がキャッチしたんです。
卵子はこのまま卵管へと移動していきますよ。
ふぅん・・・。卵子って毎月こうやってあの光の中へ飛び込むのね・・・。素敵・・・。
そして、海の藻屑のように消えていく―。精子と出会わない限りはね。とても刹那的です。
え?
卵子は、ただ排卵される日をぼんやりと待っているわけじゃないんですよ。
排卵まで行き着けるのは、戦いを勝ち抜いたほんのわずかな卵子だけなんです。
ど、どういうこと・・・?
生まれたばかりの赤ちゃんの卵巣には「卵子になる前の卵」(原始卵胞)が、200万個備わっています。
そんなに・・・。
いや、決して多いとは言えないです。
精子は1回の射精だけで通常1億~4億の精子が旅立つのに、女性の排卵は1周期につき、たった1つ。
しかも、生殖能力が備わってくる思春期の時点では、200万個あった原始卵胞は30万個程度まで減少している。弱いものは自然淘汰されていくんです。
・・・・。
1つの卵胞の中で1つの卵子が大切に育てられます。
卵子の中にはこういった様々な成長段階の卵子が卵胞に守られて切磋琢磨しながら排卵に向けて成長を続けているんです。
その期間はおおよそ375日と言われています。
ある時期がきたら、その中から排卵されるのね。
はい。ですが全てではありません。
頑張って成長し、排卵候補生として、ファイナルステージまでたどり着けるのは毎月3~11個程度です。そしてその中からたった一つの排卵される卵子が選ばれた途端、それ以外の卵子は淘汰されます。
淘汰・・・。
死んでしまうということです。1回の排卵で、途中まで成長した卵子なども含めると大体500~1000個が消えていくと言われています。
・・・そんな・・・。
自然というのは厳しいものなのです。
さあ、次は優一さんの精巣に移動しますよ!
ち、ちょっと待って!!!
なんですか?
・・・なんだか・・・恥ずかしいわ・・・。
じゃ、行きますね。
あぁっ!またあれが来るのね・・・!
しっかり掴まっててくださいね!
閉じられた瞼の裏で、マチ子はすごいスピードで飛びかう光を見ていた―。
わぁ・・・!
暖かくてとても気持ちのよいところね。
はい~。
こちらが優一さんの「精巣の中」です。
優一さんの体の中には、こんなに素晴らしい場所があったのね。
気がつかなかったわ。
精巣は睾丸にあり、俗称「キンタマ」とも言います。
まぁ・・・!
そこだったのね。
遠くからではあるが、確実にこちらへと押し寄せる
地鳴りのような音が聞こえ始めた。
この音は一体・・・?
さぁ、来ますよ!
流されないように気をつけて!
ゴゴゴゴゴーーー!!
その風圧によろめきながら、マチ子は通り過ぎる「何か」に目を見張った。
これは一体なんなのっ?!
精子ですっ!
生まれたての精子が「精巣上体」に移動しているんですっ!
精巣上体?!
そうです!精巣上体とは精巣の上にくっついている、別名「副睾丸」と呼ばれる場所で、作られた精子はそこで射精まで成熟しながら待機するんです!
それにしてもすごい数ね・・・!
精巣で作られる精子の数は1日およそ5000万~1億と言われています。そして射精待ちの精巣上体には約10億の精子が待機しているんです!
・・・・す、すごいわっ!
最後の精子が見えなくなるのを確認してから、マチ子はぽつりとつぶやいた。
これだけすごい数の精子たちに対して、卵子はたった1つしか用意されていないのね。
はい。
精子もまた、卵子と結びつかないものは淘汰されていく運命にあるのです。
・・・でも、一斉に卵子に向かったとして、これだけたくさんなら1匹だけではなく、たくさんの精子が卵子と結びつくのじゃないかしら。
いいえ。そもそも1回に射精される内、正常形態の精子数は4%以上あればよいとされるくらい、正常な形の精子というのは決して多くはありません。それに子宮にたどり着くまでの環境は相当苛酷です。
どういうこと?
膣内は酸性です。
ここで多くの精子はダメージを受けます。
待ち構える白血球もまた精子を攻撃する強力な兵隊です。結局子宮、そしてさらに卵管へとたどり着ける精子はほんのわずかしか残りません。
それに、卵子は1匹の精子と受精すると、すぐに受精膜と言われる透明な膜で覆われ、他の精子は受精できなくなるんです。
・・・ストイックなのね。
自然の摂理です。
ところで、卵子は卵管の中で待っているのね。
はい。卵管膨大部という卵管の一番奥で。
もっと精子に見つかりやすいような場所で待っててくれたらいいのに・・・。
卵子が卵管膨大部で精子を待つ理由は分かっていませんが、
卵子は受精卵となった後、「生命のダンス」という回転をしながら子宮内腔へと降りてくるのです。
「生命のダンス」・・・。
素敵。まるで舞踏会で王子様を待つ、お姫様のようだわ。
・・・。
ですが、その時間も長くはありません。
どういうことなの?
卵子は排卵されてから通常24時間しか受精能力を持ちません。
たった、1日・・・?
諸説ありますが、もっと短いという説もあります。
そんな・・・。
ついでに言いますと、精子は射精後5時間しないと受精能力が発動しません。
えぇ!
元気な精子は射精から5~15分ほどで卵子の待つ、卵管膨大部にたどり着くと言われています。しかし、受精できるのはその数時間後です。
この時間でもまた弱い精子は淘汰されていくのです―。
そんな・・・。そこまでたどり着いていながら・・・。
精子と卵子はとても過酷で厳しい環境を乗り越えて命を繋ぐのです。
なんだか辛いわ・・・。
精子は何のストレスもない場合、その寿命は2~3日、長くて1週間程度生きると言われています。
そうなのね。
できれば長生きしてほしいわ。だってこんなに頑張っているんですもの。
彼らは「命を繋ぐ」という使命を背負って生きています。その使命を果たせずにただ生き続けるというのは逆に苦しいだけなのかもしれません。
・・・そんな・・・。
ま、直接精子に聞いたわけじゃないので、本当のところは分かりませんが。さぁ、そろそろ戻らないと!
時刻は6時30分。
ふと目に入った基礎体温計の蓋を開けてみると、そこには「36.10」という測定数値が記されていた。
夢・・・・?
じゃないです。
楽しかったですか?さぁ、精子と卵子のことが少し分かったところで、そろそろ朝ごはんの支度をしないといけないのではないですか?
あ、そうだわ・・・。
数日後―。
あら、何かしら?
・・・招待状?
仁勝園家からだわ・・・。
どうしよう・・・。
着ていくドレスもないし・・・。
それに・・・。
そう考えるだけでマチ子の心はざわめいた。
~続く~
こうしてフクとマチ子の二人三脚の妊活が始まった・・・!
果たしてマチ子は優一の子を授かることが出来るのか―。
そして、仁勝園家主催のパーティでのマチ子の運命とは?!
まずは子宮と卵巣の位置関係から。

はじめにマチ子とフクがたどり着いたのは卵管采付近。そこで、卵巣から排卵されるのを目撃しました。
日々、切磋琢磨しながら自分を磨く卵子たち。そうして選ばれる排卵候補生ですが、正常な卵巣機能を備えていても、年に1回程度は無排卵となる周期があると言われています。
無事に排卵した卵子は、卵管采にキャッチされ、卵管へと運ばれます。そして卵子は卵管膨大部といわれる場所で24時間の間、精子の到着を待つのです。
精子が到着しなかった場合、卵子は受精能力を失い、排卵からおよそ14日後に訪れる月経とともに排泄されると言われています。
逆に、精子の到着により、受精卵となった場合は、「生命のダンス」という回転が始まり、卵管を通過。
子宮内腔に降り立ち、子宮内腔を覆う「子宮内膜」に着床します。
これが「妊娠の成立」です。
万が一、卵管の途中などに着床してしまった場合はそれを「子宮外妊娠」と言い、妊娠が成立したことにはなりません。
子宮外妊娠は全体の1%程度です。
この場合、手術になり、妊娠は中断されます。
しかし、子宮外妊娠を起こす割合は経産婦が8割と圧倒的に多く、初めての妊娠の場合はわずか0.02%の確率であると言われています。
精巣と精子の基本
お次は精巣の位置。

ウィキペディアより引用 ライセンス詳細
精子は「精巣」内で作られます。
精子が、精子として成熟するまでの期間はおよそ80日と言われています。
精子の元となるのは「精祖細胞」。
これが精巣の中にある精細管の中で細胞分裂を繰り返します。
精祖細胞→精母細胞→精子細胞→精子となり、精細管という管を通り、精巣上体に向かいます。
ここで10~20日間の間、精子は泳ぐ力や卵子に侵入するためのトレーニングを行うのです。
こうして、成熟した精子ですが、その全てが元気いっぱいと言うわけではありません。
前進がうまくできないもの、形がいびつなもの、動かないものなど、少なくとも半数以上は生殖能力の弱い、もしくは無い精子です。
精子のこうしたウィークポイントは、「数」でカバーしています。
大量の精子を作り出すことで、わずかに誕生する生殖能力の強い優秀な精子だけが受精への切符を手にするのです。
いかがでしたでしょうか。
毎月訪れる月経や、射精される精子には、こんなにもドラマチックな背景があります。
卵子や精子たちの健気すぎる頑張りを成就させるために
私達には、「効果的な妊活」が求められるのです。
コメントを残す